公開時、映画館で観ていて、開いた口が塞がらなかった映画があります。ちょうどレティシア書房の古本市真っ最中で、ブログでご紹介していませんでした。

今回家で見直して、やはり凄い映画だなと感心しました。弱冠28歳のアニース・チャガンティ監督「サーチ」です。

妻を亡くしたデビットは、一人娘マーゴットと二人暮らし。ある日、マーゴットと連絡が取れなくなります。いつもやりとりしているメールにも、電話にも応答がありません。事件に巻き込まれたか、失踪したのか?なんとか娘を探そうとする父の姿を追いかける映画です。なんだ普通のサスペンス映画?とお思いの方、それが全く違うのです。

物語がすべてパソコンのモニター画面上で進行していくのです。娘の無事を信じたいデビッドは、マーゴットのPCにログインして、インスタグラム、フェイスブック等の彼女が活用しているSNSにアクセスを試みていきます。

映画には、パソコンの操作画面と、PCのカメラが捉えた父親の姿、そして誘拐事件を捜査する刑事とのチャット画面などのPC世界だけが延々映し出されます。

PCの画面には、父親が知らなかった娘の姿がありました。観ていると、そこに登場する娘や、娘の友人はリアルな存在なのか、もしかしたら架空の人物なのではないか、と不思議な気分に陥ります。沢山の情報が詰まっているのにそこに居る人の本心に届かないもどかしさ。娘はネットの向こうで何をしていたのか?私たちも錯綜しながら、刻々と変化するモニター画面に釘付けにされて、最後のどんでん返しに遭遇する羽目になります。

スティーブン・スピルバーグが、従来の映画文法を全く無視して作り上げた25歳のデビュー作「激突」(71年)と同じような、革命的な新しさに満ちた映画です。そして、私たちが、繰り広げられる事象がリアルなのか、ヴァーチャルなのか判断できないネット社会で生きていることを突きつける作品でもありました。もし、この作品が10年前に公開されていたら、SF映画と言われてしまうかもしれませんが、今なら誰もが、いかにもありそうだと納得します。SNSが日常のコミュニケーションツールになっている方には、これが当たり前でしょう。スピルバーグ同様チャガンティ監督は天才ですね。

エンタメ作品として、破格の面白さを持っている一方で、ネット社会に生きる私たちの姿を見事に捉え、戦慄します。