本を愛する人の著作って、もう無限大にありますが、これはそんな中でも傑出した一冊でした。樹木医という職業の人がいますが、樹木を愛し病いの樹木を診察し、丁寧に回復させてゆく仕事に似た感触でした。
著者のジェヨンは、アメリカの大学図書館附属の「書籍保存研究室」で働きながら書籍修繕のノウハウを学習し、2018年、ソウル市内に「ジェヨン書籍修繕」作業室をオープンしました。「書籍修繕という仕事」(原書房/新刊2200円)は、電子書籍プラットフォームに連載されていたエッセー21本と新たに書き下ろされた9本をまとめたものです。
「書籍修繕家は技術者だ。同時に観察者であり、収集家でもある。わたしは本に刻まれた時間の痕跡を、思い出の濃度を、破損の形態を丁寧に観察し、収集する。本を修繕するというのは、その本が生きてきた生の物語に耳を傾け、それを尊重することだ。」
と、著者はプロローグで自分の仕事を説明しています。彼女の元へ持ち込まれたボロボロの本、かなり破損が激しい本の修繕前の状態と、修繕後の状態の写真が収録されています。それを見ながら、文章を読んでゆくことになります。
「子どものころの友だちがまた戻ってきたみたいです」
これは、それまでミスなく修繕を終わらせれば良しと思っていた彼女の仕事の姿勢を変えた、依頼者の言葉です。もう戻ってこないと思われた本が、美しくなって持ち主のところに戻ってきた時の気持ちです。この言葉は、「書籍修繕家というマイナーな仕事を続けるなかで時に疲れたとき、今なお、心の中に色とりどりの花火を打ち上げてくれる。」と書いています。
持ち込まれる本は様々です。え!こんな本も修繕するの?と思うようなものもあります。中には60cm✖️60cm、37kg、という一人では持てないような巨大なものもあります。それらの書物を、オリジナルに沿った形で復元するか、あるいは装いも新たに修繕するか、依頼主と相談しながら、丁寧に根気よく慎重に作業を続けて、刻まれた記憶や思い出を守る様は、目の前で一流の職人さんの手仕事を見ているような感覚になります。
「読み終わったら何の未練もなく捨てられる本もあるけれど、さまざまな理由で修繕までしてもらいながら持ち主のそばでずっと大切にしてもらえる本もある。そういう本は『伴侶本』と呼ぶことも可能ではないだろうか?そんなふうに愛情を注がれた本ならば、伴侶動物と飼い主が似ているように、本と持ち主も書籍修繕によって互いに似ていくこともあるのではないだろうか?」
こういう仕事に携わっている人ならではの意見でしょう。枯れ木に命を吹き込む植物の医者のごとく、彼女は壊れた本に再び生命を吹き込み、本をこよなく愛する人なのです。