ここしばらく、コロナウイルス感染拡大のニュースを受けて映画館に行かず、録画したものをもっぱら見ています。先日見たのは、デンマーク映画「ギルティー」。監督は、長編映画デビューのグスタフ・モーラー。全編に渡って、警察の緊急コールセンターに勤務する主人公の警官しか出てきません。あとはコールセンター内の同僚や上司がいるだけ。ほぼ一人という設定は、前にご紹介した「サーチ」に近いですが、こういうやり方もあるか、と驚きました。

警察官のアスガーは、ある事件をきっかけに現場の第一線から退き(その理由は後半明らかになってきます)、緊急通報司令室でオペレーターとして勤務しています。ある日、一本の通報を受けます。今まさに誘拐されているという女性自身からの緊迫した通報でした。事件解決の手段は電話だけ。さあ、どうする。車の発車音、女性の怯える声、犯人の息遣い、現場に到着した警官の靴音などヘッドフォンを通して聞こえてくる音。アスガーは、多分優秀な警官だったこともあり、数少ない手がかりを通して犯人を突き止めます。ところが、直後にそれが全く間違いだったことが判明するという展開になっていきます。

90分間、緊張を強いられる映画ですが面白い。観客にはアスガーの顔しか見えません。さらわれた女も、その夫も、子供達の顔や表情も、もちろん現場の様子もすべて、聞こえてくる声だけで想像するしかないのです。シンプルな設定ながら、全く予測できない展開の本作は、各地の映画祭で高い評価を受けました、

監督のグスタフ・モーラーは「音声というのは、誰一人として同じイメージを思い浮かべることがない、ということにヒントを得た。観客一人ひとりの頭の中で、それぞれが全く異なる人物像を想像するのだ」と語っています。観客の想像力を操るという、全く新しい映像表現で一本の作品を作りあげました。

映画館で見た人たちは、同時にスクリーンに対峙しながら、それぞれの頭の中で、違った顔の女性や、夫、子供たちのイメージを持って帰るということになります。これ、想像した登場人物の姿をみんなで語り合ったら、面白いかもしれません。

 

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