アジアの食をメインにしたミニプレスを三点入荷しました。著者は増喜尊子さん。

最初にご紹介するのは「ASIAN FOOD TRAVEL」(2100円)です。2019 年に家族で1ヶ月アジアを旅行した時の食事を 綴った ZINE です。訪問した地域は 香港、ダナン、ハノイ、バンコク、コンケーン、バ ンガロール、上海です。 写真とイラストをバランスよく配置して、日本語と英語で、各地のお料理を紹介しています。決して高級な料理ではなく、庶民の食べるものばかりを集めて、見ているだけで楽しくなる本です。カバーの色違いで5種類用意されていますので、お好きなものを選んでください。因みに本書はグルマン 2021 料理本大賞、 デザイン部門世界1位受賞しました。

2番目は「 ASIAN LUNCH BOX」(2100円)です。これはパッケージが面白い!駅弁風の箱にお箸が付いています。開けると色違いの5種類の小冊子が入っています。青色 はシンガポール&タイ、 黄色 は上海&香港 、オレンジ はインド&ネパール、 緑色 は マレーシア&インドネシア、 ピンク はベトナム で、その地域の料理がイラストで描かれています。

 

著者は「アジアの料理が好きで、食べたい!と思うものをイ ンスタグラムで探したり、以前自分が撮影したもの からイラストにしました。インスタグラムではアジアのフードインスタグラマー達一人 一人に許可を得て描きました。彼らと小さな交流す ることで成り立った ZINE です。」と、語っています。

 

3冊目は「FOOD&DRINK HONG KONG」(2100円)です

「香港の食文化を子供や大人に紹介する絵本 ZINEです。 シンガポールのライター Wee Ling が文章を書き、私 がイラストとデザインを担当しました。Wee Ling は 過去に香港に数年住んだことがあり、その時の思い 出の料理や私が香港人の夫と香港で食べた料理など を選んでいます。変わりゆく香港の記憶に留めたい 料理たちです。」

日々、変化してゆく香港の食文化を、香港に馴染深いライターとともに作りました。文書は英語ですが、日本語版別紙が付いています。”CLAYPOTRICE”、これ「土鍋ご飯」ですが、「スモーキーな土鍋ご飯は香港の冬の名物の一つ。みんな土鍋の底についたサクサクのお焦げが大好きです」とのこと。ウマそうです。

 

☆4月5日から当店で小幡明「わたしのたいわん」と題した個展を開催します。小幡さんの台湾に思いを馳せて制作した絵画や、台湾にまつわるリトルプレス、雑貨などを展示販売します。  (4月5日から16日まで)

 

毎週欠かさず観ているTV番組に「いぃ、移住」(NHK・Eテレ毎週木曜)があります。都会から地方へ移住して、新しい生活を始めた人たちをドキュメントする番組です。先日、滋賀県長浜市の、女性だけで立ち上げたミニプレスを発行するイカハッチンプロダクションが出演していました。

企画・編集を行うイカハッチンプロダクションの出した雑誌「サバイブユートピア」。1号は2年ほど前に発行されていて、当店でも完売しました。第2号(1100円)の特集は、ズバリ「嫁」です。結婚後、それぞれの事情で長浜にやってきた嫁たちの座談会「サバイブな嫁たちの座談会」が巻頭を飾ります。本音で語っていて面白いです。さらに、イカハッチンプロダクションのメンバーによる「母達の井戸端会議十人十色なお産のハナシ」へと続きます。

「移住者」は辞典によれば「よその土地に移り住む人」と定義されています。では、嫁もまた移住者のはずですが、「●●のお嫁さん」であって、「移住者」とは認識されていないのだといいます。「お嫁さんという言葉は『よその土地に移り住む人』という意味よりも、『女が生まれた家から夫となる人の家にゆくこと』という意味の方が大きいのかもしれない」と、埼玉県出身のイカハッチン、ほりえさんが答えています。

長浜市の山間、渓流沿いにひっそりと古民家が立ち並ぶ大見は、三十人ほどが住んでいるいわゆる限界集落です。そこへ東京から引っ越してきたイカハッチンメンバーの一人船崎さんが、文章と写真を担当した「限界集落ラプソディー」というエッセイも載っています。

また、仏像に魅せられた「観音ガール」對馬さんによる「かわそ信仰」の考察は興味深い。「かわそ」さんというのは「川で濯ぐ」「川のすそ、しりにある」に由来し、男女とも腰下の病に効くとされていますが、特に女性は、子を産むことへの強いプレッシャーに悩み、自分を責めたりしたのでしょう、信仰を寄せたのは女性が多かったそうです。さらに、ヨガ講師MUTUMIさん(イカハッチンメンバー)による出産を控えた人のためのマタニティヨガ、小さな出版社が惚れ込むちいさな古い私設図書館にまつわるお話など、魅力溢れる内容です。

日々思っていることや疑問が、まさに井戸端会議のノリで語られているところが素敵です。最後のページに、イカハッチンプロダクションのメンバーの写真入りのプロフィールが掲載されています。経歴も仕事も出身地も趣味も様々だからこそ、それぞれに滋賀の暮らしに楽しみを見つけ深堀りしています。ちなみに表紙の写真は、イカハッチンメンバー八人の個性あふれる白い割烹着姿で気合いが入ってます。

 

「たやさない」(hoka books/1100円)は、編集発行人の嶋田翔伍さんが、親しい知人に執筆を依頼して作り上げたミニプレスです。嶋田さん自身、「烽火書房」と言う「ひとり出版社」を運営し、本づくりを続けていくために、何をすべきかをずっと考えてきました。このミニプレス「たやさない」のキャッチコピーは「つづけつづけるためのマガジン」。嶋田さんが「つづける」ことに、とてもこだわっていることがわかります。というわけで、ものづくりをしている人たちが、なぜ今の仕事をすることになったのか、どうして続けてきたのかを書いてます。

執筆者は、京都の和菓子屋「のな」を営む名主川千恵さん、東京国立市谷保にひとり出版社と本屋「小鳥書房」を立ち上げた落合加依子さん、作曲家の高木日向子さん、京都西陣に店を持ち日本とアフリカのトーゴ共和国を行き来する中須俊治さんの4人。彼らとの関係については、それぞれの章の前に嶋田さんが書いていて、書き手に対する厚い信頼がわかります。

何かを作りつづけるためには、好きなことがあるということ。それこそが持続のエネルギー源。そして信頼できる誰かと出会うこと。それにはかなり直感が働いているような気がしますが、例えば、商店街の店主であったり、職場の先輩であったり、仲間であったり、店のお客様だったり、または好きな作家であったりもします。そして、今生きている場で力を出すこと。なにかを始める時「ないものねだり」より「あること探し」をすることが大切だという中須さんの言葉は印象に残ります。中須さんは銀行員だったからこそ自分ができることを考えて、トーゴと日本の新しい架け橋を作ることができたのだと。

物語性のある和菓子を創作している名主川さんは、「人が追い求める心地よさは、新たに生み出すものではなく、探し出して呼び覚ました、自分自身に眠っている何世代も前の祖先からの贈り物の中身との再会ではないかと、年を取るたびに感じるようになった。私はそういうものを見つけては、風味を織り混ぜ、形のある『菓子』へと組み立ててゆきたい。」と書いています。

また「小鳥書房」の落合さんは、93歳まで国立市谷保の商店街で手芸店を営んでおられた女性に想いを馳せながら、「わたしはこの本屋に立ち続けたいと思っている。いまこうして近くにいてくれる仲間たちと、見守ってくれる谷保の町のひとたちに恩返しできることは、『本をつくって本を届ける』こと以外になにもないから。なるべく長く自分にできることがしたい。」といいます。

中でも私がこのミニプレスでキュンとなったのは、高木日向子さんの作曲したオーボエとアンサンブルのための「L’instant(瞬間)」という作品が、画家高島野十郎が描いた油絵「蝋燭」からインスピレーションを得ている、という文章でした。偶然この画家の「蝋燭」の絵を見たことがあったから。その曲をいつか聴いてみたいと思いました。(女房)

 

 

 

 

 

 

「システムに封じ込められた人間の創造性の解放を促す」をテーマにした「新百姓」(2200円)が創刊されました。「効率性や規模の拡大を最優先に追求する経済のあり方、人間一人ひとりが、それに従順であるように求められる巨大な社会システム。そういったものに疑問を持ち、新しい生き方を探求している人たちの、問いと実践の物語を紹介する雑誌です」と趣意書には書かれています。

なんか難しそうと思われましたか? 実際に紙面をめくったらそんな感じは全くありません。要は、グローバル経済の恩恵やら、AIとコンピュータネットワークが作り出す明るい未来などを、簡単に信じ込まずに、ちょっと見方を変えて世界を見てみようよ、というのです。そうすると、私たちが、何か巨大なシステムに操られ、思考停止の状態になっていることが見えてきます。実際に、写真をふんだんに使った構成は、読みやすく、文字もびっしりと埋め込まれているわけではありません。

創刊号には、霊長類研究者の山極寿一さんへのインタビューが掲載されています。本誌発行者の女性に、「あんな忙しい先生へのインタビューよく出来たね」と言ったら、駄目元で申し込んだらすんなりOKが出たそうです。霊長類学の権威であり、京大総長を勤めた方、ということで最初は緊張していたそうですが、「手土産の焼酎を渡すと会話はとたんにテンポを上げる。それは僕らの想像以上に、山極先生から『僕らの考え』が語られる喜びに満ちた時間となっていった。」と、このインタビューがとてもいい雰囲気だったことが伺えます。

この中で、先生は「技術に人が奉仕するんではなくて、技術が人に奉仕するっていう、そういうシステムを作らないといけない。 もっと端的に言えば、今は人間の社会が経済に奉仕している時代だよね。逆なんですよ。社会というものがあって、それをさらに豊かにするために経済っていうものがあるべきだったのに、今は逆になっちゃったんです。」と語っています。

このインタビューを読むだけでも価値ありですが、最後に、「そもそも、なんで『新百姓』をつくろうと思ったの?」という発行人と編集長を交えた対談が載っています。これが、なるほどね、と納得の対談です。これからの編集に期待大です。

 

面白い女性に出会いました。先週末、岡崎のみやこメッセで行われた「京都文学フリマ」に参加するために夜行バスで来て、フリマ終了後、当店でフェアの話をまとめ、大きな荷物を引っ張って、再び夜行バス乗り場に向かっていきました。

その人は、モノ・ホーミーと言う名前で挿画を中心に幅広い活動をされています。夏葉社から出た大阿久佳乃「のどがかわいた」の表紙絵といえば、思い当たる方も多いと思います。

全6巻が出ている「貝がら千話」は一枚の絵と、奇妙なもの、楽しいもの、悲しいもの、へんてこりんなものなどの短い物語が、一緒になっています。彼女は先ず、絵を描き、それに合わせた物語を作り上げていくのだそうです。
第1夜「あなたの種、売ります」が書かれたのは2019年2月6日。第100夜「パブリックディスクロージャー」が同年5月16日。ここまでが第1集として単行本化され、最新刊は、2020年6月20日の第501夜「ぼくのかわいいぬいぐるみ」から同年9月27日の第600夜「風船」までを収録した第6集。いや、凄い!ここまでひたすら書き続けているのが。これ、どこから読んでも大丈夫。表紙と本文に挟み込まれている絵の、気に入った巻からお読みください。美しく輝く小説の導入部を読んでいるような気分になりますよ。
今回のフェアでは、つけペンとインクで描かれた「モノ・ホーミー線画集」も出ています。京都の出版社「さりげなく」より刊行された”お風呂で読める”長湯文庫「するべきことは何ひとつ」に収められている、33篇の短編のもとになった図案から描き起こしたものです。
また、詩画集「ユー・メイド・ア・ポエット、ガール」は、翻訳家で詩人の 高田怜央さんとの探索ユニット”海の襟袖”の第一作です。日本語で書かれた詩が、英語でも読める凝ったスタイルの本に仕上げました。このユニットの第二作「窓新聞『トキオタイムス』」は、モノ・ホーミーさん曰く「覗き込むと日常に風景から詩が浮かび上がる風景詩化装置」というさらにユニークな作りになっています。
その他にもポストカードセットや、原画カードもお持ちいただきました。ぜひ、ごらん下さい。
☆レティシア書房のお知らせ   
次週1月25日(水)〜29日(日) 「海外文学」セールを行います。特価商品がいっぱい!

ミニプレス「よあけのたび」の、第2号発刊を記念して、「Have a wonderful morning 」と題した展示が今日から始まりました。

「よあけのたび」は、主に京都(他に鎌倉、尾道)のカフェなどの朝ごはん巡りが、エッセイと写真と楽しいイラストマップで書かれています。著者はまごさん。1000件以上のモーニング巡りをした朝型人間だそうで、朝の魅力を発信し続けています。早朝街を散歩していて、ふと気になったカフェに立ち寄りモーニングを注文する。まごさんは、店の佇まい、ドアを押して入った印象や、その時の気分を丁寧に綴っていきます。コーヒーの匂いが立ち上ってきて、店主との静かな対話、食器の音などが聞こえてくるようです。すぐにでも食べたくなるような美味しそうなトーストやサンドウィッチ、これは危険な本です。

いつも市内のカフェの情報を携えてレティシア書房に立ち寄ってくださるIさんに、昨年まごさんのミニプレスを教えてもらい、その後何度も追加注文している人気のミニプレス(2021年5月30日の店長日誌で紹介)。京都に長く住んでいますが、カフェでモーニングという時間を持たないまま暮らしてきました。「よあけのたび」を手にしたら、これを体験しないのは人生の楽しみを半分損してたのではないかと焦ります。

「わたしにとって朝の時間は、たとえ近所でも、コーヒーとトーストというシンプルな食事でも、旅をしているときに感じる非日常のような特別な時間です。」と、「よあけのたび」の1号に書かれていました。そして待望の第2号。冒頭にはこう書かれています。

「なんでもない日が少し特別に思えるから、夜明けのたびにワクワクする。それは旅へ出る日のように。」小さな旅は、今こんな時期にこそ大切なものかもしれません。

今回の個展では、まごさんの作った張り子の狸と、 ミニチュアフードを手がけるBonchi Kyotoさんとの「たぬきの朝ごはん」というコラボ企画も!!これがメチャクチャ可愛い!!たぬきの朝ごはんに、時を忘れて見入ってしまうこと請け合いです。(張り子のたぬきは販売しています。)その他、朝の散歩に持っていきたいオリジナルマルシェバッグなども販売していますので手にとってご覧ください。

そしてさらに、「思い出の朝ごはんを描かせてください」というinstagramを通じての呼びかけに寄せてもらった文章とともに、まごさんのイラストが並んだ「思い出の朝絵ご飯」(写真左)という、盛り沢山の展示となりました。食欲の秋、まごさんの展覧会でお腹いっぱいになってください。(女房)

 

 

朝ごはん巡りミニエッセイ本「よあけのたび2」発刊記念展

『Have a wonderful morning 』は、11月16日(水)〜27日(日) 13:00〜19:00(最終日は18:00まで)月火定休日

 

文京建築会ユースは、東京建築士会・日本建築家協会の文京支部からなる「文京建築会」の若手有志団体として2011年に発足しました。その文京建築会ユースが、歴史的建造物などの記録保全・活用提案等の活動の中で、地域コミュニティ拠点として注目してきたのが銭湯でした。

京都もそうですが、文京区の銭湯もここ10年で半減し、数件しか残っていないそうです。解体される銭湯から、多くの道具や部品を回収したもののどう活用するか悩んでいました。

京都で行われた「京都銭湯芸術の祭りMOMOTARO二O一七」を視察したのがきっかけで、「祭り」の姿を借りて、銭湯を未来につなげようと企画。「銭湯山車巡行部」を立ち上げました。そして、2021年「令和三年度銭湯山車巡行」を行いました。本書はその公式記録集(1500円)です。

銭湯のあらゆる要素を一台の山車に詰め込む、という大胆な発想で、ユニークな山車を製作。そのプロセスも事細かに収められています。閉業した銭湯の写真と、その部品をどう活用していったかを見ることができます。出来上がった山車が表紙に使われていますが、立派な破風と下足箱が組み合わされ、タイル張りの水回りもついた楽しいフォルムは、可愛らしく、堂々としています。巡行を見たかったな、きっと大きな拍手を送ったことでしょう。

「祭礼における『山車』は、伝統文化や誇りを具現化し、精神を受け継ぐ依り代で、各地域の工芸技術の粋を集め永く継承するものでもある。今回の『銭湯山車』でも、東京の銭湯が培ってきた文化を建築や彫刻の要素も含めて色濃く再現することで、銭湯の『粋』が後世に伝わっていくことを期している。」

編集・デザインを担当された内海さんが、一緒にフリーペーパー「みんなの藍染大通り」を持ってきてくれました。この通りで行われている歩行者天国50周年を記念して出されたものだそうですが、1972年に始まった歩行者天国が今も続いているとは驚きです。こちらの編集も内海さんで、町の再生、失われてゆく文化の復活に努力されています。(フリーペーパーは10部ぐらいしかありません。お早めに)

河田桟さんの「馬語手帳」(1320円)が店に入ってきたのは、いつ頃だったろうか。発行は2012年となっていますが、14年頃から販売していると思います。「馬語手帳」って、そんなの誰が買うの?と思った私が浅はかでした。初回入荷以降、今も売れ続けています!

本の奥付を見ると、37回も重版しています。ミニプレスでこの回数はあり得ない!置いている店も限られていると思うと、どこでもロングセラーになっていることがわかります。その後「はしっこに、馬といる」(2015年)、「くらやみに馬といる」(2019年)を出して、3冊とも人気です。

著者は、編集者として活躍していましたが、2009年、馬と暮らすために与那国島に移住しました。そこでカディブックスという出版社を立ち上げました。馬と話すなんて、ドリトル先生みたいですが、愛情を持ってよく観察して、付き合うことでウマとヒトの対話ができる、そのきっかけにしたいという願いから生まれました。

そして今回、大手児童書出版社の偕成社から「ウマと話すための7つのひみつ」(新刊1430円)から出ました。初のカラー絵本です!

「人は馬のことばがわかりません。ウマは人のことばがわかりません」でも、半分ぐらい馬のことばがわかる子供がいるのです。と著者は言います。そういう子どもは馬の様子をニコニコしながら見つめています。

「まるで、すてきな音楽を聞いているみたいに」

もし、あなたがそうなら、馬語を受信するアンテナがあるのかもしれません。だから、馬語の秘密を教えましょう、と物語は続いて行きます。一応、子供が主役ですが、大人だって構いません。

「馬語手帳」を読んで、ほっこりしたとか、リラックスできたとか、まるで違う時間が流れたよ、という感想を多く聞きました。この絵本にもそういう力が宿っていると思います。

「島には、ほぼ野生状態で生きる馬たちがいます。わたしの相棒となったカディも、もとは野生の生まれです。そうして自然のなかで馬の世界に入りこみ、長い時間をともに過ごすうちに、馬たちのユニークで豊かなコミュニケーションのありかたが見えてきました。しぐさひとつひとつの意味に気づくたび、わたしは驚き、笑いました。まるで馬から大切な秘密を教えてもらったみたいに感じたのです。」

と、あとがきに書かれています。おそらく都会の編集者としての多忙な生活で、本当の”豊かな気分”を失くしてしまっていたのではないでしょうか。そして、もうちょっと楽になろうよと現れたのが馬だったのです。

煮詰まったり、気分が下向きになったり、余裕が無くなったときに、ページを開いてみてください。

 

毎号楽しみにしている帯広発の雑誌「スロウ」(990円)。最新号の特集は「巡る道具、巡る記憶」です。

帯広にある骨董屋「グリーン商会」。数万点の在庫を誇る古道具屋さんで、店内の写真を見ているだけで行ってみたくなります。古いタイプの電灯や、地球儀など、どれも良さそうな雰囲気です。

次に登場するのは、廃校舎を直しながら古道具のリサイクルショップを十八年続けているその名も「豆電球」というお店。おっ〜と驚いたのは、特大のビクターの犬です。当店にも二体ありますが、比較にはなりません。デカい。ちょっともの寂しげば表情がぐっとくるところです。店の奥には、レコードプレイヤーも見えて、もうワンダーランド。一度入店したら一日中遊べそう。ここを経営されている宮口さんご夫婦は、ご高齢のために後継者を探しておられるとか。2022年9月現在、まだ候補者は現れていないそうですが、この濃密な空間をなんとか次世代に引き継いでもらいたいものです。

知床斜里町にある旧役場庁舎(旧図書館)。74年間使われことなく眠っていたこの場所が、「おもいでうろうろプロジェクト」という名前の企画で蘇りました。「おもいでおあずかりします」の言葉通り、タンスの奥に眠っていたような物を受け入れて、図書館に展示するという企画です。

「昔の斜里にまつわる本や地図から、どうしても片付けられない思い出の品、みんなに見せたい宝物まで、かたちのない思い出、地域の人々の声。行き場がなく、『うろうろ』しているそれらを、図書館としての記憶も持つこの建物の空っぽの本棚に集めたい」という言葉通り、面白いものが集まっています。忘れ去られたような旧役場庁舎の外観もこの企画にぴったりです。イベントの実行委員長・川村喜一さんは、写真集「 UPASKUMA-アイヌ犬・ウパシと知床の暮らし」(売切れ)の著者です。先月斜里町へ行った時、知床自然センターでお会いしたばかりでした。知っている人が出ていると嬉しいですね。

最新号は、他にも興味深い記事や素敵な写真で一杯です。人里離れた峠道にある一軒の古民家に若い女性たちが集まり、それぞれ個性的な店を出している「カミヤクモ321」。カフェや、マフィン専門店、ウィスキーを飲みながらボードゲームが楽しめる店、木彫り熊と本を売る店などが入居しています。今度、北海道に行くときはぜひ寄ってみたいものです。

 

大阪発のミニプレス「IN/SECTS」(1870円)最新15号の特集は「家事」です。

「そもそも家事ってどういうもの?という疑問をもとに、もっと広義に、家で行うことで全て=家事と拾え直し、建築家、料理家、写真家、映画監督、漫画家、店主、商売人、主婦、子どもなどなどさまざまな職業や立場の人たちと考えてみた。 そうすることで内向きなりがちな行為がむしろ四方八面へと無限の広がりを感じさせてくれるのでは?と。」

ということから作られた一冊だけあって、ユニークな企画が並んでいます。例えば「職✖️家事」。家事と職業は切り離された関係だと思いがちですが、うまい具合に職の一部に取り込んでいる5人が紹介されています。

料理家・文筆家の高山なおみ、映画監督の今泉力哉、写真家の平野愛、建築家の家成俊勝、漫画家のスケラッコとお馴染みの面々が並んでいます。

スケラッコさん曰く「家事があまり好きではないとは言え、やっていないと日常的な出来事を漫画に描く時には現実感が出なくなってしまうので、作品には活きていると思いたいです。全く家事をしないような生活だったら、描く内容も今とは違ってくる気がします。自分の作品を描くにあたっては、家事も大事かな、と。」

「教えて!お宅の家事分担」では、「誠光社」の堀部夫妻が登場。育児について堀部篤史さんは「自分達2人だけじゃない環境を作ることは優先的に考えるってことかな。だから、(経済的に)楽とはいわないけど、今の環境はいいと思います。」と語っています。お店に行った時に、時々お嬢さんにも会いますが、いつもなんか楽しそうです。

「家事」の本というと、ハウツーもの、もしくは、お固いものになりそうですが、これは面白い。

もう一冊同社の本をご紹介します。「(保存版)いいお店のつくり方」(新刊/2200円)。もともと「IN/SECTS」の過去の号で「いいお店のつくり方」として何度か特集したもので、そこで取り上げられたお店を、2022年に再度取材し、いい店の「いい」をひもときます。

選ばれたお店は、書店、飲み屋、銭湯、レコードショップ、カフェ、フランス料理店など17店が登場します。店主の開店までの道程や店への思いなどが語られていきます。

特別寄稿で吉本ばななが、「地上の天国」と題して、「いいお店は地上の天国だ」と書いています。そんな風にお客さんに言ってもらいたいものです。