人類学者の奥野克己、小説家の吉村萬壱、美学者の伊藤亜紗という手強い三人がリレー形式でコロナ禍の今を論じてゆく「ひび割れた日常」(亜紀 書房/新刊1760円)は、やはり手強く、しかし刺激に満ちていました。

「地球上の一点から飛び出たウィルスは、またたく間に地球全体を覆った。ウィルスは、感染という仕方で、地球規模の接触のネットワークを可視化して見せたのだ。途方もなく複雑なこのネットワークに人間は大きな責任を負っているはずだが、私たちはもはやその全体を想像力によって把握することができなくなっている。新型コロナウィルスは、そんな人間の想像力の果てからやってきた使者に思えた。」

とは、伊藤の主張ですが、まさに「想像力の果て」から飛来した不気味なウィルスの存在によって、それまでの日常に無数のひびが走りました。襲ってくる不安と恐怖を前にして、思考の足場をどこに、どんな風に再構築してゆくべきかを三人が語ってくれます。

生命、自然、生と死、共生、など日々様々な媒体から発せられる言葉を巡って、バトンタッチしながら展開していきます。と、さも完璧に理解しているかのように書きましたが、細部まで理解できたのかと問われれば、自信はありません。彼らの言葉を咀嚼し、ここでお伝えするには、あまりにボキャブラリーが貧弱なのですが、それぞれの論説が大きな一つの流れを形成してゆくあたりは読書の醍醐味でした。

「私たちはすでに、いのちと共生しているのではないだろうか。人が生まれ、そして生き、子を作り、死ぬという変化は、根本的には、意志や努力といった人間的な事情とは関係ないところで起こっている。いのちは自然の営みであり、それと併走することはできても、所有することはできない、生まれるとは、命の流れにノることであり、死ぬとはいのちに追い越されることなのではないか。私たちはすでに、思い通りにならないものとともにある。」

これも伊藤の論です。「生まれるとは、命の流れにノることであり、死ぬとはいのちに追い越されること」という文章が、いつまでも心に残りました。

最後に、各人が推薦する、コロナ時代を踏まえてどう考えるかを教えてくれる書籍が5冊ずつ書かれていて、伊藤さんは宮崎駿漫画版「風の谷のナウシカ全7巻」を推挙しています。

 

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