年末から正月にかけてひたすら読み続けた本が、草山万兎「ドエクル探検隊」(福音館書店/古書2800円)でした。730ページにも及ぶファンタジー小説の大作です。

ところで著者の草山万兎って誰かご存知ですか?

実は、京大出身の霊長類学者河合雅雄です。本名で出した多くの著書の中で、「少年動物誌」「子どもと自然」「森の歳時記」などは当店でもよく知られている本です。専門は生態学の先生なのですが、草山万兎というペンネームで児童文学を発表していました。本作は、2018年94歳の時に発表した長編です。主人公は動物と自由に話せる通称”風おじさん”。

昭和10年、小学校を卒業した竜二とさゆりは、風おじさんの家に招かれます。そこには、おじさんと話す多くの個性的な動物たちがいました。二人はその生活に魅了されて、そのまま居ついてしまいます。ある日、アンデスにいるズグロキンメフクロウから一家に手紙が届きます。彼が住んでいる王国に危険が迫っていることが書かれていました。これは一大事とばかりにおじさんと竜二、さゆり、動物たちで探検隊が編成されて、一行は南米ペールーへと向かいます。

波乱万丈の物語が展開し、私の頭の中では映画「インディジョーンズ」のテーマ曲が鳴りっぱなしでした。第一部第二章は映画「指輪物語」ばりのアクションシーンやサスペンス。さゆりが誘拐されて、妖術師やら巨大アナコンダが待ち構える”黒い森”に竜二たちが救出に向かうあたりは、これぞ、冒険物語の醍醐味です。

第二部では一転して、かつて生息していた巨大哺乳絶滅への悲惨な道程が語られていきます。あとがきで著者は第二部についてこう語っています。

「残酷で無慈悲で凄惨きわまりない場面を書く段になって、戦中派の私は胸がしめつけられ、しばらく頭をかかえ、考え込みました。飢餓状態の動物たちが苦しむ状況と、人間の世界でいっこうにやむことのない、『戦争』という愚かしい営為とが重なったからです。」

確かに、第二部ではページをめくるのが辛くなる時がありました。しかし、だからこそラストの希望が迫ってくるのです。

「竜二とさゆりが小学校を卒業したのは、1935(昭和10)年の三月です。竜二とさゆりにこのあとすぐに訪れるのは、けっして平和な時代ではありません。でもきっと、ふたりは未来を信じ、苦しい時代を乗り越え夢を叶えたことと思います」と著者は締めくくっています。

もう一つ忘れてはいけないのは、挿画を松本大洋が担当していることです。可愛らしい動物の姿が方々に登場します。最後に登場する神獣ラウラの、悲しい過去の歴史を生き延びた憂いある表情など見事です。松本の参加は本書の大きな魅力になっています。

 

久々のコミックの紹介です。

傑作「ピンポン」以来、その独特の画風で漫画界をリードしてきた松本大洋。熱心な読者だったかと問われれば、そうでもありませんでした。ただ、絵本「『いる』じゃん」や、最近のコミック「ルーブルの猫」などを読んで、もう一度過去の作品にも目を通そうかなと思っていた矢先、昨年出た「東京ヒゴロ1」(小学館/古書700円)が入ってきました。

大手出版社を早期退職した漫画編集者塩澤。えっ、なんで?と他の漫画家たちに惜しまれて出版社を立ち去って行きます。彼は小さなマンションに一羽の文鳥と住んでいます。その文鳥との何気ない会話が印象的です。もう漫画とは関わらないかと思われていた塩澤でしたが、そうではなかった。彼は、かつて担当した漫画家たちに執筆を依頼します。理想の漫画雑誌を作るために。

柔らかく、優しい、どこか昭和の匂いを感じさせる東京の街の風景が見事です。懐かしさとやるせなさを醸し出しながら、一癖も二癖もありそうな漫画家たちの人生が少しづつ語られていきます。過剰でなく、控えめに、ストイックに。

もはや大御所的存在になりつつある松本が、初めて描く漫画家の創作世界。う〜ん、これは彼の代表作になるかも。2巻も発売されています。今、読むのが最も楽しみな作品です。(2巻も古書で探します)

毛塚了一郎という漫画家は知りませんでした。雑誌「青騎士」でデビューして、「音盤紀行」(古書/500円)が初の単行本。作家がレコード好きというだけあって、レコードが主人公といえますが、音楽に関するオタク的情報を詰め込んだマニア向けの漫画ではありません。

「自由にレコードも売れねえ 好きな音楽もコソコソと聴くことしかできねえ。レコード屋にとってホントにつまらんトコだ」

これ、「密盤屋の夜」に登場するレコード屋の主人のセリフです。舞台となっている国では、西側の音楽などの文化の輸入を禁止していて、聴きたい音楽を得るには、逮捕される危険を冒して闇で仕入れているレコード屋に行くしかありません。かつての東ドイツのような体制下の物語です。

また「電信航路に舵を取れ」では、海上から音楽を流す海賊ラジオが舞台です。電波は東側諸国にも届いていて政権から睨まれる可能性もある中、活動する若者たちを描いて行きます。デヴィット・ボウイが西ドイツでライブをしたとき、スピーカーを東ドイツに向けて、その後のベルリンの壁崩壊の引き金になった歴史を思い出します。

帯に「レコードにまつわる5つの物語」とあるように、様々な国や環境で、レコードから流れる音楽を通して人々の人生が変わってゆく姿を描いています。よく、描きこまれた素敵な作品です。

贈り物の季節に、ぴったりの本が何点か入荷中です。

漫画家松本大洋と、詩人くどうなおこがコラボした「『いる』じゃん」(SWITCH/新刊1728円)。糸井重里が「赤んぼうでも、おとなでも好きになる。ささやくことばと、なでるような絵」と、賛辞を送っている絵本です。松本は、やはり詩人の谷川俊太郎とコラボした「かないくん」(ほぼにちの絵本/古書1400円)という傑作があり、詩人とのコラボ第二弾です。「かないくん」は切なく、ちょっと哀しいお話でしたが、こちらは冬の太陽に向かって歩き出したくなるお話です。

「地球はぼくを抱いてくれる」「地球 ぼくもあんたを抱いていたい」

という言葉が表現するように、この星と向き合う少年の思いが溢れています。絵本を読まない人に送っても、ちょっと元気でそうでいいかもしれません。書店のプレゼント絵本コーナーでもあまり見かけないようですが、勿体ない。

もう一点、絵本のご紹介。宮沢賢治原作、ささめやゆき絵による「ガドルフの百合」(偕成社/古書1100円)です。賢治作品として地味な作品を、モダンな画風で描いていきます。嵐の夜、雨を避けようとして飛び込んだ一軒の家で、主人公ガドルフが経験する幻想的なひと時。賢治作品の中では、鮮烈な色彩感覚を与える物語を、ささめやゆきが見事に絵本にしました。

「この屋根は稜が五角で大きな黒電気石の頭のようだ。その黒いことは寒天だ。その寒天の中へ俺ははいる。 ガドルフは大股を跳ねて、その玄関にかけ込みました。」

と賢治らしい言葉の使い方も、シンプルな構図で絵本の一コマになっています。なお、ささめやゆきの作品として「十四分の一の月」(幻戯書房/古書1500円)、詩人工藤有為子とのコラボ「異国の砂LE METEQUE」(ハモニカブックス/新刊2376円)も入荷しました。こちらもプレゼントに最適です。

絵本ではありませんが、童画界の重鎮武井武雄の版画作品を集めた「版画小作品集」(集英社/古書2000円)はいかがでしょうか。未刊行作品45点をすべて原寸で収録した作品集です。作者自身の手による詞文と共に卓越したセンスと楽しさ溢れる作品が楽しめます。

最後にもう一つ。「あかパン」(パイインターナショナル/新刊1296円)。赤ちゃんパンダの写真集といえば、内容はもうなんの説明も不要です。いやはや、ムフフと思わず笑ってしまう写真ばかりです。ブルーな日も、こんなパンダの姿を見たら、気分も少しは晴れてきそうです。

 

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